(5)「いたずら」
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私は小さいころからいたずらが大好きであった。いたずらはやりやすい人と、ちょっとできないなあ、という人に分かれる。
中学生の頃、それはそれは、とってもやりやすいT君がいた。T君はとてもおおらかで、いつもにこにこしている。少々のことではへこたれない。ノー天気といえば、そうかも知れない。それはイジメといえば多少そうである。
教室でよく柿ピーなどを空中に投げて、口でパクリと受けて食べるという例のやつが流行っていた。
「おいT君、俺が投げるから口でとってみな」。 「軽い、軽い」とT君。 2mほど離れ、ピーナツ、柿の種と、次々投げた。T君もなかなか上手にパクリパクリである。で、私には一つネタを仕込んでいた。柿ピーの中に先生の灰皿にあったタバコの吸い殻、フィルター部分を混ぜておいた。当然それも投げた。 パクリパクリやっていたT君、案の定それもパクリ。その後も柿ピーを2〜3個続けた頃、「何だこりゃ〜」。ペッ、ペッ、してたっけ。 黒板消しに4mほどの紐をつけT君めがけて投げつけた。ビックリしたT君、とっさによける。でも、紐がついてるから顔すれすれで止まる。2〜3分してまたやる。やはりビックリしてよける。これを3〜4回繰り返すとT君にも免疫ができて驚かなくなる。ニヤッと笑って、「何だよ〜」とか言う。
次に投げるときは手に持っていた紐ごと離すのだ。当然、今度は顔の寸前で止まることはない。
額あたりに可愛い(ホントに可愛い)コブができていた。 あれは学校帰りだったと思う。砂利道を3〜4人で小石を蹴りながら歩いたいた。私のいたずら心がムクムクムク!! みんなよりちょっと先に行き、 「おいT君、あの石蹴ってみな!」。 橋幸夫かなんかの歌を口ずさんでいたT君、2〜3歩助走をつけて思いっきり蹴った。(よりもよって助走までつけて) 「イテテテテテテーッ」座り込んでしまった。 それは小石ではなく、地中深く埋まり、地上には小石程度に出ていた大きい石だったのだ。 ズック(今はスニーカーっていうのかな)を脱がせ、手厚く、腫れ上がった親指を撫でてあげた。 (T君ゴメンね、俺、小石じゃないの知ってたんだ。だけど、T君ももうちょっと石をよく見れば良かったんだよね)。
3年前、北海道へ30名ほどの団体旅行に取材で同行した。知床半島は今も手つかずの自然が残り、四季をとおして訪れる観光客は多い。 私たちのバスも「知床五湖」へ到着。ここで知床の大自然の中に分け入るのだ、といっても遊歩道を20分ほど散策するだけ。
まず目についたのは、遊歩道入口に立てられた「ヒグマ出没注意!!」という大きな看板。 「は〜い、皆さん、集まってくださ〜い。これから遊歩道を歩きますが、この辺りはよくヒグマが出ますので、私から絶対に離れないでください。私も北海道人、ヒグマは何回も見ているし、そんなに恐怖感もありません。私が先頭を行きま〜す。じゃあ出発しましょう」。
釧路観光バスのブスでもない綺麗でもない30んー歳くらいのガイドさん。なかなか頼りがいがあるじゃん。(ん、何で横浜弁なるの。まあいいか)。 みんなも後に続いた。私は先頭から10人目あたりを歩いていた。 「ホントにヒグマが出没して、この遊歩道もよく閉鎖されるんですよ」。 旗を手に、笹藪のような雑木林のような曲がりくねった小径をガイドさんがサッサッサッと進んでいた。
5分ほど歩いただろうか、道端にある50cm位の木の枝を見つけた私、いたずら心がムクムクムク!!。その枝を手に、先頭を行くガイドさんの3mほど横へ投げ入れた。 藪の中が「ガサガサっ!」。結構大きな音がした。 「キャーッ!!!!」。
悠然と歩いていたガイドさんが悲鳴を上げ、血相を変え、凄い勢いで10mほど逃げ帰ったのだ。つられて先頭付近の4〜5人も引き返す。 でも、それがいたずらと分かるまで30秒とかからなかった。 青息吐息のガイドさんをしり目に、 「何だよガイドさん、さっきの大見えは…」とか、 「ガイドさんもやっぱりか弱い女性だったんだね」とか、慰めにもならない声が笑いの中から聞こえてきた。 (エーッ、こんなに驚くの?)。ここまでパニクるとは思わなかった私自身ちょっと反省、でも痛快、痛快。
バスに戻ったガイドさんに心ばかりのお詫びのしるし、アイスクリームをあげた。引きずり気味の微笑み返しが印象的だった。 (0402)
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